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$月~日 短銃♀

シスターレイの準備を終えて、一旦研究室に戻った頃。
私は今、社長の前の指示で星中のアンゲロに関する情報の検索と
その削除を、主に宝条博士と共に行っているけれど…。

…前社長のパソコンから見つかった、一つだけ気になる暗号の掛けられたファイル。
この暗号を解かない限り、私の最も重大な仕事は終わらない。

ただ…こういうのは宝条博士に伝えた方がいいのかもしれない。
そう思って、私は博士の席の元へ訪ねた。

$月~日 宝条

ようやく仕事に一段落つき、私はリーブから頼まれた
反アンゲロ装置の開発に着手していた。

…それにしてもだ。
アンゲロリーナの研究に未練が残っている私にとって、今回の
社長の指示には気にそぐわないものがあるが……

まあ、そのアンゲロによって星自体が滅ぼされてしまうのでは
全く持って意味が無い。
今回ばかりは、私は不本意ながら社長の下に従う事にする。

「宝条博士」
不意に声を掛けられ、思わずその方向へと振り向く。
そこには、明らかに張り詰めた表情のタークスの小娘がいた。

「…シスター・レイの件、大丈夫なんでしょうか?あんな強大な巨砲を使っては
周りの地区に被害が出るのでは…」
わずかに心配そうな顔で聞く、小娘。

「そんなもの、魔晄調整を減らして信管を抜いたりすれば、恐らく問題は無いだろう。
…もっとも、それは私の管轄外の事だが」
「…そうですか………」

やや安堵の表情を見せるものの、小娘は再度顔を引き締め
私に尋ねてきた。

「それと、宝条博士。…少し宜しいですか?」
「…何だ」
「…前社長のパソコンから、一つだけ気になるファイルを見つけたんです」
「 気になるファイル? 」
なんだそれは。
同じように復唱すると、私の心を悟ったのか言葉を付け加えて説明する。

「以前、私とリーブさんが調べていたときには見落としていたみたいだったんですが…
前社長が、ノエルを崇めて綴った日記が入っているフォルダの中に、
一つだけ乱数式の暗号か掛けられた妙なファイルが入っていていたんです」

「……暗号だと?」
「はい」

……。
クックッ……なるほど。

確かに…あの社長のパソコンから、そんなファイルが出てくるのは怪しい。

「その乱数式というのは、有限のものか?」
「…恐らくそうだと思います」
…私は、そのファイルを私の元に転送するよう彼女に指示を出し
共に暗号の解読に努めることにした。


しばらく解析を続けているものの、複数の暗号が掛けられているため
全ての解除には多少困難を極めた。
「…この中、一体アンゲロに関する何が入っているんでしょうね?」
不意な問いかけにも、私は手を休めずに答える。

「……アンゲロは、あれだけ強大な力を持ったものだ。その力を所持する者が
それを抑制する手立てがあっても不思議ではない」
「じゃあ…アンゲロの弱点が…?」
「可能性の話ではあるがな」

そう言うと、小娘は顔を下げ黙り込んだように思えた。
…全く、一体この女はどうしたというのだ。

そんな事を考えながら、再びモニターに集中していると
しばらくして、小娘は…ゆっくりと口を開いた。

「……もし…、もしですけれど……。

そのファイルの中にアンゲロの弱点になる物の情報とかが入っていたら、
その物の開発に博士が携わっている可能性も少なからずあるんじゃないんでしょうか?」

…………。

私は、何も言えなかった。

キーボードを叩く動作を止め、椅子から立ち上がり、
足早に別室へと移動し、その部屋のパソコンを起動させる。
その後を慌てて小娘がついてくる。

「博士…?」
「…少し、気になることがある」

それだけ言い、私はパソコンに入っている一つの資料を開く。
すると、かなり膨大な量のリストが長々と表示された。

「宝条博士、これは…」
「…私事の物から全て、前社長から開発を頼まれた物の企画書リストだ」
果てなく続くそのページを、ずっと下までスクロールさせながら答える。

「少し心当たりがある。しばらく待っていろ」
そう言って、私は小娘を小部屋から追い出し
しばらくそのページを眺める。

……もし、私が気付かぬ内にアンゲロに対抗する物を開発していたならば
その履歴が残っているはず。

だが、だいたい検討はついている。
前社長が、私事で私に開発を頼んだ物。それはたった一つしかなく、
そしてそれが、恐らくアンゲロの弱点だ。

しかし…あんな物が…アンゲロの対抗できる物だというのか…?
確信を得るにはいまいち根拠が無い。

薄暗い部屋の中。
私は一人、青いモニターの光を浴びていた。

X月&日 イリーナ

「クマエル・・・・・。 覚悟しろよ、と!」
電磁ロッドを振り上げたレノ先輩がクマエルにとびかかる。
さすが、タークスのエース。早いわ!
「相棒!」
「・・・・・・わかっている」
ルード先輩の絶妙な援護、
HGとばかり思っていたけど、やっぱり凄い!

・・・・・・あぁ、そうよ。そうだわ。思い出した。
私たちはタークス。誇り高き、タークス!
いつだって意地と心意気を持ってやってきたのに、
どうして忘れていたのかしら!

「イリーナ。今だぞ、と!」
「はい、先輩!」
銃を構え、クマエルに狙いを定める。
エロ発言を繰り返したり、全裸だったり。そんなのは全部偽り。
これがタークスの本当の姿。思い知らせてあげる!
「受け取りなさい。私たちの意地と心意気!」

”パンッッ!”

鋭い音が左の翼を捕らえ、バランスを崩したクマエルが落下する。
そこにレノ先輩が後ろから素早く近づきピラミッドをかける。
「よくやった、イリーナ。 後は俺に任せろ」

ゆっくりとした足取りでレノ先輩がクマエルに近づく。
私とルード先輩は、それを後ろから見守るだけ。

「悪いな。俺たちはタークス。命にかえても任務は遂行する」
動けないクマエルの前で暫く立ち止まっていた先輩は
そう一言いって、ピラミッドに電流を流した。

「グギャァァアァ」

この世のもとのは思えない悲鳴をあげて、
ピラミッドごとはじけ飛ぶクマエル。
「こんな時がいつか来るかも知れないって思っていたから、
 ロッドを改良しておいたんだぞ、と」
震える声でそう呟きながらも、
レノ先輩は決して目をそらそうとはしなかった。

「・・・・・・良くやった」
私の隣で事の行く末を見守っていたルード先輩は、
しゃがみ込んだレノ先輩に近づき、そっとその肩を叩いた。
「・・・・・・・。これでよかったんだぞ、と」
制服の袖で目元を拭った先輩は立ち上がったレノ先輩は、
誇り高きタークスのエース。

「イリーナ。行くぞ、と」
「はい、先輩!」
戦いはまだ終わらない。
二人の背中を追って、私は再び歩き始めた

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