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$月И日 ケット・シー

(あわわわわ、こりゃ〜マズイですわ……)
地下大聖堂の柱の影に隠れながら、ボクは猫目に内蔵された
小型カメラで必死に映像(>>これツォンのおへやの祈念画像館にリンクしています)を収め、本体のリーブに送っとる。
(この状態でマトモなのはレノさんだけやったのに……どないするんや……)
口元から魂をはみださせて意識を失っているレノさんを録画しながら、
ボクの耳はへにゃりと完全に後ろを向いてしまっとった。

あかん。せっかくレノさんの機転で、レノさん自身をアンゲロリーナだと思わせて
ツォンさんを落ち着かせるという計画がうまくいきそうやったのに……。
イリーナさんとルードさんは自分の事しか目に入ってないようやし、
デブモーグリ無しのボクの非力なボディじゃ、な〜んもできへん。
オロオロと取り乱すボクの背中に、突然、ぽんと手が置かれた。

「フギャッ!!」
びっくりしてしっぽを膨らませながら飛び上がったボクの頭の上に、声がかかる。
「ご苦労だった」
「にゃ…………」
ハッキリとそう口にすると、声の主は臆する事もなく、颯爽と足を踏み出した。
救世主のような真っ白のスーツ。ブーツの音を響かせるその人物は───

$月И日 ルーファウス

「そこまでだ!」
私は怯えるケット・シーの横を通り過ぎ、大聖堂の中央に足を踏み入れた。
瞬間的に、幾つもの視線が私を射抜くように向けられる。
敵意、混乱、安堵、色々なものが入り混じった視線に、私はフッと唇を歪ませた。
そのまま、カツカツと足音を響かせて、くんずほぐれつしている彼らに近付く。

「しゃ………ちょう………?」
私に気付いたのか、意識を失っていたレノがゆっくりと顔を上げた。
「遅れてすまなかったな。レノ、イリーナ、ルード」
その声が耳に入ったのか、まずイリーナが、続いてルードがレノから離れ、
まっすぐに私を見ながら敬礼の姿勢を取った。
ふむ。タークスとしての目つきだ──悪くない。

「社長、今までどちらへ……?」
下半身が全裸なのを除けばまともに見えるルードが、低い声で問いかける。
その尻に挟まっている電磁ロッドを視界に入れないようにしながら、私は答えた。
「神羅綜合病院だ。アンゲロリーナに対抗しうるものを、手に入れるために」
そうだ。そこで私は手に入れた。親父の残したヒントから──“あれ”を。

「社長………」
長い入院生活で少し痩せたように見えるイリーナが、申し訳なさそうに言った。
「イリーナ、レノ。長期の音信不通による処分は追って考える。
 ……気に病む事はない。病み上がりの身体でよく頑張ってくれた」
ふん、私らしくもない。そう思いながらも、私はそう口にする。
そして私は、未だレノにしがみついているツォンの元へと、一歩足を進めた。

「ツォン」
私の声に、恍惚としていたツォンがびくりと振り返る。
「夢物語はおしまいだ。………もう、休め」

私の言葉に、悔しげに唇を噛むと、ツォンはゆっくりとレノから離れる。全裸に靴下で。
「社長、お言葉ですが………私は、とうとうアンゲロリーナ様に出逢ったのです。
 ここまで来て、もはや引き返す事などできません」
「ツォン、それはお前の妄想だ。アンゲロリーナなど、どこにもいやしない」
「しかし!!」

激昂するツォンの背後で、“アンゲロリーナ様”………
その役を買って出たレノが、苦しげに深く溜息をつき、静かに口を開いた。
「ツォンさん、俺はアンゲロリーナなんかじゃない。
 全ては、あんたを、誇り高かったタークスの主任に戻すための───」
「……なんだと?」
レノの言葉を耳にしたツォンの瞳が、すっと闇色に染まった。
その瞬間、大聖堂の中が、押し潰されるような圧迫感に包まれる。

「なるほど、やってくれたな、みんな……。
 よく私のアンゲロリーナ様への夢を見事に打ち砕いてくれた……

 はじめてだよ……
 この私をここまでコケにしたおバカさん達は……
 まさかこんな結果になろうとは思わなかった……

 ゆ…
 ゆるさん…

 ぜったいゆるさんぞ虫ケラども!!!!!
 じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!!
 ひとりたりとも逃がさんぞ覚悟しろ!!! 」

怒りに我を忘れたツォンが絶叫すると同時に、大聖堂が地響きに包まれる。
ツォン自身の身体がどす黒い光に包まれ、その形状を変えていった。
妄想が具現化する。
───アンゲロリーナが、降臨した。

「「「ツォンさん!」」」
レノ、イリーナ、ルードの声が重なる。
言葉にせずとも、おぞましい瘴気が全てを私たちに伝えていた。
ツォンは身を震わせて白目をむくと、両小指を思いっきり鼻の穴に突っ込んだ。
大聖堂の祭壇をバックに、奇妙な神らしき姿がおぼろげにツォンと重なる。

変化は緩やかに行われているが、このままでは時間の問題だと判断した私は、
柱の影でうろたえているケット・シーに視線を送った。
「ケット・シー!すぐにリーブとスカーレットの元へ戻り、伝えろ。
 ………魔晄キャノン………“シスター・レイ”の準備だ」
「え、えぇ!?でもアレはウェポン襲来のための──……」
「反論は許さん。今は目の前の危機が最優先だ。行け!!」
「は、はいな〜」

アンゲロ・ツォンはおそらく大聖堂の天井を壊し、ミッドガルの外へ出ようとするだろう。
そこで決着をつけねば───この星はメテオを待たずに、破滅を迎える。
神羅カンパニーの魔晄技術を結集して作られた“シスター・レイ”。
まさかこんな状況で使う羽目になるとは思っていなかったが、やむを得ん。

レノ達3人が戦闘態勢を取り、アンゲロ・ツォンから私を庇うように立ちふさがる。
「私は大丈夫だ。それよりお前たちは、あれを!」
私は、大聖堂の床からじわじわとその姿を現しつつある“それ”に彼らの視線を導く。
可愛らしい外見とは裏腹に、恐ろしい瘴気を纏った“それ”───

「ク、マエル………」
レノが、吐き出すようにしてその名を呼んだ。
あるじの危機を察して召喚されたとおぼしき、クマのぬいぐるみ………
否、それは最早ぬいぐるみと呼べるものではない。
どんな魔物も裸足で逃げ出すような威圧感を纏ったクマエルは、
明らかな敵意を持って、こちらに襲い掛かってこようとしていた。

クマエルを食い入るように見つめるレノに、戸惑いと混乱が見える。
「ルード、イリーナ………そして、レノ。クマエルを、倒せ!」
「社長!それは………っ!!」
イリーナが振り向き、私とレノに、交互に視線を向けた。

………ああ、知っているさ。レノが、このクマをどんなに慈しんでいたのかを。
「滅ぼせ、レノ。お前は、お前自身の束縛から解き放たれなくてはならない」
後の人々は、私を冷酷と蔑むだろうか?ふん、言わせておけばいい。
タークスとしての誇りを取り戻さない限り、タークスに、神羅に、この星に未来は無いのだ。

懇願するようなイリーナの視線を遮るように、レノが手を伸ばす。
「………イリーナ。いいんだ、と。俺は………───クマエルを、倒す」
レノが電磁ロッドを構え、クマエルと向き合った。
途端に、あたりに身を切るような殺気が満ちる。
レノのその様子に、何も言わずに相棒のルードが続いた。

「先輩………」
イリーナはしばし戸惑っているようだったが、やがて唇を噛んで、クマエルに向き直る。
一触即発の状況の中、下半身裸のルードが珍しく口を開いた。
「……クマエルは、我らに任せてください。しかし、社長の身の安全は………」

「それは俺たちが引き受けるぜ!!」
元気のいい声とともに、複数の足音がばらばらと大聖堂へ駆け込んでくる。
茶色い髪をした悪ガキ───ロッドが、私とアンゲロ・ツォンの間に立ち塞がった。

「当然。私たちだけのけ者だなんて、そんな話が許されると思って?」
「………フッ。永遠の監獄から、舞い戻ってきた」
続いて散弾銃♀が、二丁拳銃の生えかけの前髪を掴んで引きずりながら登場する。
「社長の身は、私たちに任せておけ」
格闘♀が凛とした声で宣言すると、きつくアンゲロ・ツォンを睨み据えた。

「社長!レノ!俺たちが来たからにはもう安心だぜ!」
アンゲロ化を進めるツォンから目を離さず、ロッドが自信ありげに言った。
「社長、安心して頂戴。今頃あの子(短銃♀)と宝条博士は、それぞれの情報を元に、
 神羅のデータベースから、この星全てのアンゲロ情報をデリートしてくれているわ(>>これ)」
散弾銃♀が、振り向いてこちらにウインクをする。
「フッ。手裏剣♀と刀♂は、住民の避難にあたっているはずだ」
アンゲロの光がその目から消えた二丁拳銃が、低い声で呟いた。
「万が一の為に、ハイデッカー部長が外にソルジャーを待機させている」
格闘♀が、普段どおりの冷静な声で告げる。

………まったく。タークスとやらは、本当に頼りになる組織だ。
似合わない事を思いながら、私はこんな状況で笑みを浮かべていた。

「………ああ。感謝する」
私の声を聞き取ったタークスたちは、皆一様に気合いの入った顔で頷いた。
「ところで、格闘♂はどうした?」
「バナナむさぼり食ってたから置いてきたわ」
ロッドと散弾銃♀の間で小さな会話がかわされていたが、気にしない事にする。

今頃ケット・シーが、スカーレットとリーブの元に指示を伝えていてくれるだろう。
未知の力のアンゲロ・ツォンと、この場で戦うのは得策ではない。
何とかツォンとアンゲロリーナを引き離し、アンゲロリーナだけをシスター・レイで………。
大丈夫だ。私には、神羅綜合病院で手に入れた“アレ”がある。
私の考えを読んだかのように、アンゲロ・ツォンとクマエルが一層殺気を増した。
暗黒の瘴気が、忌まわしき大聖堂に満ちる。

───役者は揃った。

Angello Crisisの終わりが、始まる………。


>>>>>>To be continude............

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