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√月〓日 ルーファウス

夢を見た。
神羅総合病院への移動中に仮眠をとっていた時の事だ。

場所は神羅本社ビル前。
昼間から露天が並び(誰だ出店許可など出したのは)、人集りが出来ている。
其処彼処から『アンゲロ』という単語が目に耳に入ってきて心中で眉を顰めた。
突然人の群れがざわめいて割れ、輪を描くように動き出す。
群衆の視線を追えば其処には、黒髪にダークスーツ、そしてホクロ………ツォン。
レノ(目がうんざりしている)にイリーナ、ルード(着衣)までも従え、キモ…もとい、
妙に晴れやかな笑顔で群衆の中心に立ち、高らかに告げた。

「同胞達よ、今日という日を待焦がれていただろう!私のホクロも破裂しそうだ!
  今日の主役は…もうなんか、いいや。アンゲロ祭り、開会ぃぃいぃひひ!!!!」

歓喜の叫びをあげながら服を脱ぎ捨て、踊り狂う人、人、人───
そして私は何の意思も感情も無くただ遠巻きに眺めている…
……なんだこれは?私は何故ここに居る?この異常事態に何故体が動かない?
瞬間、既視感が過る。これは…まさか…現実に、起こった事…なのか?
過去を追体験している…?

狂宴の最中、夢の中の私は徹底して無感情に観察し続けていた。
正視に耐えないツォンの狂態。恍惚の表情で踊りながら失神したイリーナ。
固く目を閉じ、耳を塞いで泣き崩れるレノ。一糸乱れず叫び(歌い?)踊る人の群れ。
どうやらこの祭りの主役はレノとイリーナらしい。
ツォンがしきりに二人を立てようと痛々しく囃し立てていた。

……これが過去に起こった事ならば、何故私は憶えていない?
この光景を忘れる事など、もう到底出来そうも無いというのに。
これだけの数のアンゲロ信者を目の当りにしていながら、何故。
以前本社ビル前が凄惨な有様になっていたことがあったが、あれがこの夢の翌日だとして、
私が『アンゲロ』を知ったのはこれより随分と後のことだ。この時点では私は何も知らなかった。

…………知らなかった?…────!

そう、知らなかった。『アンゲロ』も自分のことも知らなかった。知識は無かった。
だが今、『アンゲロ』をウィルス、私を抗体保有者と仮定してみるならば…
私は…識っていたのだ。迫り来る危機を。自らの役割を。──気づいていなかっただけで。

無自覚のまま、無意識に『アンゲロ』に対抗するべく監視していた。
知識を得るまでの準備だったのだ。

それを肯定するかのように『祭り』の記憶が蘇る。私自身のものとして。

ふと目を向けると、疲れを知らないかのように踊り続ける群衆の中に、レノがいない。
何の気はなしに周囲を見回す。割と近い位置に赤毛が見えた。
親と逸れて途方に暮れる子供の様な背中だ。
だらしなくしゃがみ込んでいるが、もう泣いてはいない様だ。
赤く染まり憔悴した目で、群衆…否、ツォンとイリーナを見つめる横顔に、
何故か微かな罪悪感を覚えた。

「帰ってきてくれよ、と…」

喧噪の中、聞き逃してしまいそうに小さな、本当に小さな呟きを最後に、私は目を覚ました。
記憶を反芻しながら先の感傷に納得し、そして同時に自らの失敗を悟る。
私は見誤った。
お前だけは警戒しなくともよかった。お前は染まりきることなどなかった。
そうなのだな…レノ。我々に警告したのも、ツォンのホクロを封じたのも、お前だったのに。

いいだろう。私はもうお前を追わない。お前は闘う為に姿を消したのだろう?
ならば、行き着く先は同じだ。
この借りは必ず返す。
『アンゲロ』を駆除し、お前の居場所も、星も、部下も、全て取り戻してみせよう。

決意を新たに、目的地への道を急いだ。
敵の姿すら不明瞭な、出口の見えぬ闘いの、勝利の為に。

〆月ω日 ツォン

身体が重い……。
ふと目を覚ますと、私は…見慣れない薄暗い部屋にいた。
疲労と倦怠感に包まれた体をゆっくりと起こし、静かに辺り見回す。
だが…部屋は完全に外とは遮断されているようで、普通なら場所の特定のしようがない。

しかし、私には分かる。
この異質で独特な空気の匂い…間違いなく神羅ビル社内のものだ。

…それにしても、おかしい。
私はアンゲロリーナ様に会うために神羅ビルを抜け出し、
大聖堂の前まで辿り着いたはずなのに…

半ば記憶のない状態で過去を回想していると、以前まで監禁されていた部屋を思い出す。

………。

フフ…そうか。
私は…また、捕まってしまったのか…。

活性化したホクロの暴走はもはや落ち着き、私はすっかり冷静さを取り戻していた。
気付けば裸ソックスの状態だったのも、いつの間にか新調されたスーツへと着変わっている。

私は力なくそのまま仰向けに倒れ、……気付けば、薄汚れた天井から釣り下げられた
豆電球をしばらく見つめていた。
…微弱ながらも、暗闇を照らしつづけるその小さな電球。
そんな光にも、妙な暖かさ…温もりがあって…
いつしか私は、アンゲロリーナ様を思い浮かべていた。

…少し昔の話だ。

レノとイリーナが閉じ込められていた頃。
当時、私は「人類最強」という言葉に惹かれていた時期があった。
私はその「人類最強」というものに、一体どうすればなる事ができるのか。
そんな事を暗中模索していた時。前社長が私に「アンゲロリーナ教」なる
宗教の勧誘をしてきた。

…その時。私は「これしかない」と思った。
アンゲロリーナ、神……
正しく人類最強を目指す私にとって『神』という言葉は、
相応しい以外の何もなかった。

だが、そんな気持ちは最初だけで、アンゲロリーナ様の素晴らしさを知るたびに
私の中で人類最強などどうでもよくなっていった。
人類最強などという考えがバカだったのだ。最強なのはアンゲロリーナ様しかいない。
そのアンゲロリーナ様に、私は一生この身を捧げるのだ。

私には、もはやアンゲロリーナ様しかない。
私は、アンゲロリーナ様に会いたい。
会って、私自身…そのお姿をお目に掛かりたい。

そして…それを邪魔する者は、誰であろうと許してはならない。

………。

ムッ……。
なんだ…、この湧き上がるような力は…。

果てたはずの体が……自然と元の状態へと蘇っていく…。
それどころか、まるで超人のようになったような気分になっていく。
……まさか…アンゲロリーナ様が、私にお力を…。

…思えば、いつもそうだ。アンゲロリーナ様はいつでも私を
暖かく見守って下さっている…。

……フッ…フヒヒッ…
…そうなれば、私のやるべき事は一つ…。

アンゲロリーナ様、どうか…あと少しだけ待っていて下さい。
今からあなたの元へ、あなたの素晴らしさをミッドガル中の人々へと
伝えなければならない。
そしてできる事なら……あなたと共に、同じ道を歩んで行きたい。
そう切望しながら、私は額のホクロへと二本指を当てる。

「…くらえッ!!魔貫光殺ホクロ砲―――!!」

その瞬間、ホクロから強烈な光と轟音が放たれ、
出来上がった一筋の光線がコンクリートの壁へと勢いよく衝突する。

やがて壁は、跡形も無く消え去っていった。

「…フヒヒヒヒッ!これはすごいぞっ!!」


………。

…少し、あと少しだ。

アンゲロリーナ様…。
私は今から、あなたの元へ…。

〆月Ω日 リーブ

なんという事だ…私はなんという見落としをしていたのだ…。

今日、Angello Crisis用の情報を自宅で調べてると
社長から電話がかかって来た。
社長はひどく興奮してこう言った。

「リーブ!外を…!空を見るんだ…!」

なにが起こったのかと窓から空を見上げる。するとそこにあったものは

「究極の破壊魔法メテオ……」

先日の大空洞での事件…我々はアンゲロに関する大きな情報を得たと喜んでいた。
しかし、我々が思っていたより状況は深刻だ…。
あの時セフィロスとリユニオンしたジェノバは…アンゲロに侵食されていた。
もし、それとリユニオンしたセフィロスがアンゲロに屈してしまえば、アンゲロはメテオを操り、多くの信者を持ち、自身も凄まじい戦闘力を手にする。
…まさしく神。

クラウドたちと同行しているケット・シー2号に動いてもらわねば…

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