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⊇月щ日 短銃♀

ツォンさんが脱走して18時間が経った。
いまだにツォンさんの居場所はつかめない。しかし、大体の居場所は分かる。
ツォンさんはスーツ一式を独房に置いていったが、いくら探してもソックスだけはどこにもなかった。
裸にソックス。そんな姿のツォンさんが向かう先などつかめてる!
ジュノンの近郊の滝の奥、アンゲロ総本山!

だがホクロが開放され、ホクロ因子が最大限まで充填された状態のツォンさんに何の準備もなく突っ込むのは無謀だ。
Zガンダム相手にプロトザクで突っ込むようなものだ。
なので私とリーブ部長は宝条博士のラボへと向かった。

宝条ラボ。
普段なら何があっても一般社員はおろか、ソルジャーやタークスも近づかないそこに、私たちはいた。
その一番奥の机の上に回転箒ほどの柄の長さがある、金属探知機のような機械があった。
「これが…アンゲロ探知機ですね。」
「クックック…そうだ。これはアンゲロ因子に反応し、それを知らせる仕組みでできている。」
アンゲロ探知機…実際ツォンさんのホクロパワーを抑えるのには何の役にもたたないが、これを応用すれば
反アンゲロ装置なんかも作れるはずだ。
「とりあえずこれを使えばツォンを探せるハズや…。」
リーブさんが呟く。
「たぶん…ツォンさんはどこにいるかは想像がつかめます…。」
「なんやて!?」
「ジュノン近郊の滝の奥…アンゲロ総本山です。」
リーブさんの顔はもう絶望的だった。
「……アンゲロ総本山…そんなものまで…あったなんて……。」
総本山。そこに向かったらツォンさんのホクロ因子は最高まで達する。
そうなれば確実に神羅…いや、星の危機が訪れる。
宝条ラボに沈黙が走った。

「でも、あそこまではハイウインドやゲルニカをを使わなければ7日か8日はかかります。その間にこれを使って神羅内部の
アンゲロ信奉者を徹底的に叩けば、後でアンゲロそのものを叩くときに有利です。」
私は私の中にあった不確かな希望を口に出した。
「…そうや。まずはミッドガルだけでも平和をとりもどすんや…。」
リーブさんは疲れ切ってはいるものの、その瞳には私のものと同じ希望があった。

「宝条、この探知機はすぐにでも生産ラインに乗せられるんか?」
「基本構造は地雷用の金属探知機と変わらないからな…図面さえ送ればすぐにでも作れる。それと…」
宝条博士は羽の生えた熊のぬいぐるみを白衣の中から取り出した。
「先日ダストシュートで見つけたのだが…。」
私は先ほどまでの希望がどこかに行ってしまったのか、凍りついた。
「反アンゲロ因子を作るのに使用したのだが…、私にはもう必要ないのでな…。どこかに捨ててきてくれ。」
私とリーブさんはクマエルを受け取ると、宝条ラボを後にした。

「どうするんや、こんな危険な物。」
「とりあえず、コンクリートかポリカーボネートにでも詰めてジュノン海溝にでも沈めておきます。」
私はリーブさんを外に待たせて、髪と顔を直すため女子トイレに入っていった。
トイレの中には手裏剣♀がいた。
「こんばんわ。」
「こんばんわ…あら?」手裏剣♀は私が小脇に抱えたクマエルを見る。
「これ、クマエル様でしょ…どうしたの?」
「ああ、宝条博士がゴミ捨て場で見つけて反アンゲロ因子を作るのに使ったやつで、これからコンクリで固めて ジュノン海溝に沈めにいくの。」
手裏剣♀は「明日の夜、アンゲロ大聖堂に来てくれる?」と言い残して出て行った。
私はそんな彼女をよそに鏡の前で髪と顔を直す。
そして、ゆがんだネクタイを直した時、あることに気がついた。
なぜ彼女がアンゲロ聖堂のことを…アレは私しか知らないはず・・・。

私は携帯を取り出し、電話帳を検索し、そして電話をかけた。
「刀?私、短銃♀。明日の夜開いてる?実はさっき手裏剣♀と…で。…うん。ありがと。
詳細は後で話すから。」

⊇月Ν日 刀♂

──短銃♀からの電話。とても、とてもいやな予感がする。
夜に、神羅ビルの地下へ来てほしい、か。僕は心の中でそれを復唱した。
短銃♀が言うには、神羅ビルの地下には、手裏剣♀に呼び出されたらしい。
僕は気付かれないよう影からそれを監視し、何かあったら援護してほしいと。
「何かあったら、か」
何か──それは、つまり…………。

「うかない顔ね。どうしたの?刀♂らしくないじゃない」
後ろから聞きなれた声が聞こえ、僕はゆっくりと振り向いた。
「いや?すこぶる快調だよ。早くこの村雨にも外の空気を吸わせてやりたいくらいさ」
僕を見上げる手裏剣♀に向かって、笑顔で答える。とても、普段と同じ会話。
それなら良かった、と微笑む彼女の顔を見ていると、アンゲロだなんてまるで想像もできない。
「………手裏剣♀」
ふと真面目になった僕の声に、手裏剣♀が僕を見上げ、首を傾げる。

「………世界は………この星は、美しいね。……とても」
彼女に、僕に言えるのは、これだけ。手裏剣♀は一瞬キョトンとしてから、くすりと微笑む。
「ふふっ、変な刀♂。………それじゃ私、行くね」
「ああ。手裏剣♀も気をつけて。じゃあね」

軽く手を振って少し歩いたところで、彼女は立ち止まり、振り返る。
「ねえ、刀♂。あなた、クマエルちゃんを─────……」

すてたの? その唇がそう紡がれようとして、動きを止める。
僕は何も言わずに、眼鏡の奥でそっと目を細めた。普段通りの微笑み。
悩んで、心せめぎあった末、僕の中で勝利を修めたのはクマエルではなく──…
この、腰に差した刀、村雨だった。それが、結果だ。

「………ん、わかった」
手裏剣♀も微笑む。ほんの少し悲しそうなその瞳。
僕たちはもう一度だけ、じゃあね、と言って、別れた。

手裏剣♀の裏切り。短銃♀もその可能性に気付いている。
今夜、神羅ビルの地下で何が起きるのか、僕には分からないけど。
「………何かあったら」
もう一度僕は呟いた。何かあったら、僕はその時、手裏剣♀を。
──ああ、庇いきれないものだね。僕は眼鏡を直し、小さく溜息をついた。

Angello Crisisが 核心に近づいてきている。
僕たちの決戦は、今夜。

⊇月N日 短銃♀

神羅ビルの地下に向かう隠しエレベーターの中で、私は愛用のクイックシルバーに装弾をし、4個の替えマガジンを確認していた。
おそらくこれから繰り広げられるであろう、戦闘のために。

あの時、手裏剣♀がアンゲロ聖堂を口にしたことは、私の中に密かに芽生えていた彼女への不信感を通常の3倍にしたのだ。
アンゲロ聖堂のことは死んだプレジデントやOB達を除けば、私と社長とリーブ部長以外では誰も知らないはず。
あのツォンさんでさえ(恐らく)ここを知らなかったのだ。
それを知っているということは・・・彼女はアンゲロの中でもかなりプレジデントに近かったのだろう。

「そろそろ・・・か。」
リィンロン、と妙に心地よい音が鳴り、エレベーターの扉の向こうに白い聖堂が姿を現した。
そして、あの悪夢の女神アンゲロリーナの下に
「来てくれたのね」
「ええ」

手裏剣♀が立っていた。

白亜の聖堂に対照的な黒いスーツが二つ並んでいた。
「すこし聞きたいことがあるんだけど」
「私もよ」
私はクイックシルバーを、手裏剣♀はその大きな手裏剣を構えながら問った。

しばしの沈黙が、大聖堂に走った。

「まず短銃♀からどうぞ」
手裏剣♀は私に向けていた手裏剣を下げ、口元を緩めた。
「ありがと。じゃあ単刀直入に言うわ。」

「貴女、アンゲロ信奉者?」
「・・・ええ」
やっぱり
のなかにあった3倍の疑問は、そっくりそのまま現実となった。
「私がツォンに拾われた事は知ってるでしょ。ツォンは私にあの日から、アンゲロの素晴らしさを教えてくれたわ。
わかった?私は生粋のアンゲロ教徒なのよ。」
手裏剣♀はいつもの顔のまま言う。
「・・・ツォンさんに、情報を流したの?」
「いえ、情報を流すことはやってない。というか今のあの人にそんな物意味をなさないから」
「ツォンさんは今何処?」
「アンゲロ総本山を目指して、今グラスランドのちょっと前。」
「そう。ありがとう」
アンゲロリーナの下、私はクイックシルバーを下ろした。

「次は私の番ね。」
手裏剣♀はコツコツとパイプオルガンの方に移動する。
「クマエル様は、今どこにいるの?」
「コンクリ詰めにして、ついさっきジュノン海溝の底に沈めたわ。」
「そう・・・」
手裏剣♀は手裏剣を構える。
そして刹那、私の耳元に風が走る。
・・・やっぱりね。
私はクイックシルバーのチェンバーを引く。
そこからはプロフェッショナルの戦いだった。

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