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〆月日 スカーレット

ああ、しくじったわ。私は、面白おかしく人生を送っていきたいのに。
久々の出勤になるリーブの様子でもからかってやろうと、彼の部屋に行ってやったら
ちょうどそこで、リーブを訪ねてきていたルーファウス社長とも鉢合わせしちゃったのよ。
いつもの調子で、呼び出しもせずにいきなり開けちゃったから、気まずいの何のって。
しかも最悪な事に、ちょうど例のアンゲロに関する話だったんだから、もう。

「どこまで知っている?」社長にきつく尋問されて、
「スカーレット……」リーブに懇願されるように言われて、
───結局、2人には今までの流れを説明するほかなかったわ。
クマエルちゃんを手に入れて、洗脳されかけた事。手放した事で、元の自分を取り戻した事。
私とした事が、自分の汚点をさらけ出す羽目になるなんてね。……ホント、情けないわ。
私の話を聞き終わった2人は顔を見合わせて、決意したように頷きあった。社長が言う。
「スカーレット。きみはアンゲロ化から元に戻った前例を持つ人物の1人だ。
 現ミッションにおける重要人物になるかもしれない───協力してくれるな?」

………来た。絶対こう来ると思ったわよ。だから今まで言わなかったってのに。
私は面倒な事をこれ以上抱え込みたくないのよ。ただでさえ兵器開発に忙しいんですから。
「頼む、スカーレット」
社長とリーブが声を揃える。───そんなの、どうやって断ればいいのよ、もう。

兵器開発部門統括、そしてAngello Crisis部隊第二副隊長。
それが今日からの私の肩書き。フン、もちろん、後者に関しては極秘ですけれど。

「スカーレットの話から、アンゲロ化を伝染させる媒体は“クマエル”の力が大きい事が分かった。
 私は宝条を使ってその感染経路や拡散速度に関して調査を進めると共に、ツォンに尋問を行う。
 リーブは引き続き、例の“レッドマーダー”の特定を急いでくれ。
 スカーレット、きみはリーブの補佐に回ってほしい。………頼んだぞ」
社長はいつもながら、素早く的確な指示を出して、部屋を去っていった。

「“レッドマーダー”って、いったい何なのよ?」
私の問いに、リーブはパソコンを開いた。
ツォンのおへや。その画面を見た瞬間、私の背中にぞくりとしたモノが走る。
クマエルちゃんが呼んでいるような……決してその手を取ってはいけないような……。
ざわついた心を抑えるために、私は強く頭を振った。

「“アンゲロリーナ”に対抗する手段を持つと思われる人物だ。彼を味方にすれば──
 いや、彼を味方にしない限り、我らの勝利はないと社長も考えている」
リーブはそう説明した。……ふうん。なるほど、レッドマーダーね。
彼(?)の書いたレスを見ていると、なんだか、不思議と同じ匂いを感じるわ。
アンゲロを一度知り、そして、そこから抜け出そうともがいている人間……。
フン、まあ、気のせいかもしれないけど。

「彼の特定を急ごうとしているのだが、それが、現在八方塞がりの状態なんや。
 サイト管理人でないとホスト名は分からないし、プロバイダ側に問い合わせても
 “個人情報を第三者に教える事はできません”と断られてしもたし……」
リーブは頭を抱え、溜息をつく。

こ、こいつ、知ってはいたけど、クソ真面目すぎ……というか、もしかしてバカじゃないの?
思わずビンタしそうになる手を押さえて、私はリーブに言葉を返す。
「正攻法で行ってどうすんのよ、バカね!キャハハ、そんなんだから苦労すんのよ。
 私に任せなさい。兵器開発の名にかけて、こんなサイトくらい簡単にハッキングしてあげるわ」
自信ありげな私の台詞に、リーブがぱっと顔を輝かせた。
やっぱりコイツ、ケット・シーに似てるわ。私はそんなどうでもいい事を思う。
「終わったら報告するわよ。それじゃ、アンタも頑張りなさい。じゃあね、キャハハハッ!」
「あ、ありがとう、スカーレット。心強いわ……そうだ、先日の紅茶も……感謝している」
私の背中にかけられたお礼の言葉を聞こえないフリをして、私は部屋を後にした。

……忙しいけど。本当はこんな面倒な事、抱えたくないけど。
ま、これが終われば社長ももっと私を取り立ててくれるだろうし、予算も回ってくるってものよ。
それだけよ!それ以外に理由なんてないんですからね、キャハハハハハ!!
──さ、ハッキングハッキング。いそいそと私はデスクに向かった。

短銃♀

聖堂から持ってきた「新訳・アンゲロ聖典」と「せいてんしくまえるさま」を昨日今日で読んだ。
それでアンゲロリーナの勢力図とクマエルだかというぬいぐるみの謎がわかった。
話をまとめるとこうだ。

アンゲロリーナはその使い、クマエルと共に2000年前に三又の滝壺に現れて世界中に布教の旅に出たのだ。
道中アンゲロリーナは燃ゆる山の中腹でノエルという異教の少女天使が忙殺を試みたが失敗、しかしアンゲロリーナはそれを許しアンゲロのすばらしさを知ったノエルは
彼女はアンゲロリーナに仕え、アンゲロリーナの守護天使となった。
その後アンゲロリーナは多くの信者を従えたが、それを善しと思わない異教の者たちも多く光臨から100年後、彼女に仕える天使・ファルエルがアンゲロリーナを
大いなる鳥の里にて殺害した。

短銃♀

弟子たちはそれに涙したがクマエルはその後も布教を続け、ノエルは裏切り者・ファルエルを追った。
そしてついにノエルはファルエルを緑に輝く峰の頂上で殺害した。
その後ノエルは先の未来、常闇の荒野にてアンゲロリーナがよみがえると預言し、クマエルと共にしばしの眠りについた…。

こんなとこだ。
私はおそらくこの本にある土地土地は実際の場所だろうと思う。
三叉の滝というのは、ジュノンの近くのアレ。
燃ゆる山とはコスモキャニオン。
大いなる鳥の里とはコンドルフォート。
緑に輝く峰とはニブル山。
そして常闇の荒野とは…ここ、ミッドガルだ。

そして、私は後半部分のノエルの言葉は本意とは違うものだろうと思う。
その根拠はブーゲンハーゲン氏の本。これによると、あまりに生前の何かの思念が強いと、その部分のライフストリームはその方向にとどまり続けるという。
それが多ければ多いほど血液が停滞するように、ライフストリームも停滞する。
つまり―――――星の危機だ。
アンゲロリーナ信仰があまりに肥大化しすぎ、ライフストリームがアンゲロ方向に停滞し、星の危機を呼ぶ。
だからノエルはわざとアンゲロリーナを復活させず、クマエルを封印し、自らも眠りについたのだろう…。

そして、もう一冊の本・せいてんしくまえるさま。
内容はアンゲロ教典を子供向けにして、主人公をクマエルにしただけのものだった。
でも、かなり絵はうまい。
作者はプレジデント神羅。
「……ずいぶんメルヘンな絵がうまかったんですね。」

私はその本を読んでいる途中、はらりと一枚のメモが落ちた。
「ネオ・ミッドガルプロジェクト 建設予定地」
建設予定地・・・。私はそれを拾い上げ、すぐ読んだ。

「第一建設予定地、ジュノン近郊の滝の上。『アンゲロ総本山!これで巡礼が楽に!』」
アンゲロ総本山?
私はアンゲロ教典をもう一度開き、その作成年代を調べた。
「嘘でしょ・・・」
制作年代は約1900年前。かなり歴史ある宗教ということだ。

ああ、そうなのか。
ここ。ネオミッドガル。
ここが私たちのア・バオア・クーなんだ。

そう悟った私は社長のところへ向かおうと、腰を上げた。
と、そのとき。
「あ〜にめじゃない。あ〜にめじゃない〜。」
私の携帯電話がなった、着信音がZガンダムということはAngello Crisisの仲間。
「はい、短銃♀です。」
『ルーファウスだ!恐れていたことが起こった!』
社長の声に普段の冷静さはなく、興奮に震えていた。
『ツォンの…ツォンの絆創膏がはがれた!』
私は携帯電話を落とした。

悪夢が。
悪夢が始まろうとしている。

⊇月 Θ日 宝条

昨日の大空洞の一件から心機一転した私は、
未知なる存在…アンゲロリーナの研究に取り掛かる事にした。

私は自らの好奇心、探求心を満たす為に研究に手を出している。
社長はアンゲロリーナをやたらと危惧し、ここの社員全員を
一人一人調査している様子だったが、私が興味があるのはアンゲロリーナのみ。
私には関係のない事だ。協力する気など毛頭ない。

アンゲロリーナ…。
その正体を探るにあたり私は、人を幻惑し、自分の下へと服従させる
その謎の力に全てが隠されていると考え、その手始めとして
まず擬態に失敗した禍々しい女神……もとい、アンゲロに犯された
ジェノバのエーテル周波数を測定することにした。

……なんという事か。
その結果は、通常のマテリアに付帯しているものとは違い、
この世には存在しないはずの莫大な数値を示していた。
それはつまり、古代種など超越した……
『神』の領域へと私の研究は達していたのだ。

クッ…クッ…ク…。
面白い。実に面白い。
この力を全て把握し自在に操れるようになれば、JENOVAなど必要ない。
だが、さらに研究を進める上では……そう。材料となる物が少ない。
資金に関しては社長が科学部門の予算を限界まで引き上げてくれたため
問題は無い。
そこで私は材料の調達のため、ある装置を開発に取り掛かった。

∀月 #日 宝条

…ついに装置が完成した。

その名も『ア ン ゲ ロ デ ィ テ ク タ ー 2号』。

…最後に余計なモノが付いているが、それは気にしない。
食っていたラーメンを、転んだ拍子にぶちまけたのが原因で壊れたなど、
口が裂けても他人には言えん。

……まぁ、そんな事はどうでもいい。

この装置は、付近の生物、無生物から発せられるアンゲロじみた
特殊な力を感知し、その発生場所を探知し知らせるという優れものだ。
そして私の理論が正しければ、そのアンゲロパワーは
身近な所にも複数発生しているはずだ。

この装置の形状は金属探知機のようなもので、あまり複雑とはいえない
構造で出来ている。
よって、おそらく私以外の人間でも使うことができるだろう。

まずは試運転という形で装置を持ち歩きながら社内中を歩く。
すると、なぜかダストシュートの先から反応があった。
…この先は確か社内のゴミ収集場へと繋がっている。
こんな所に一体何があるのだというのか?
早速、私はその場所へと向かった。

悪臭に満ちたゴミ溜めの中を、私は夢中で踏み進んでいった。
奥へ進むにつれ感知音のテンポが速くなる。それと同時に、私の
期待と興奮も強まっていった。

……これが…。
ディテクターが感知していた物は、一見…何の変哲もないクマのぬいぐるみだった。
背中には何故か羽が生えており、手にはラッパが握られている。
ゴミに囲まれたこの場所で、このクマのぬいぐるみの存在は明らかに浮いていた。
それに…このぬいぐるみを見ていると、徐々に意識がうすれ…不思議な気分に浸ってくる。

これがアンゲロの幻覚作用なのか?
どうも以前ツォンに作らされた薬の効用と似ている気がする。
…だが、これで私の理論は証明された。
装置は今のところ問題はない。私はさらに社内中をこれで捜索し、
アンゲロリーナの研究に必要な材料を集めていく事にする。

このクマエルも研究室に持ち帰り、早々に解剖してサンプルにするつもりだ。


……ん。
待て。私は今、何と言った…?

クマ…エル…?
なんだこの名前は?
自然と頭にこの文字が流れてくる。

………
クッ…クッ…クッ…。

アンゲロリーナ。まだまだ調べる事が多そうだ。

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