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Ж月※日 ハイデッカー

今、社内で『アロエリーナ』だか『テロテアリーナ』だかという物が流行っているらしい。
フン、どうせまた、たまごっちだかそういうものの仲間に違いないのだろう。
若い者の間で流行るおもちゃなど、下らん。
実に下らん……つい数日前まで確かにそう思っていたのだが、社長までそれに執着するのを見て、ワシは焦りを覚えていた。
何とかして『アンゲロアリーナ』とやらの正体をつきとめねば。このままではワシの出世にかかわってくる。

廊下を歩いていると、リーブとすれ違った。
そうだ、馬鹿正直なコイツならすぐに親切に教えてくれるだろう。
そう思ってリーブの肩を叩くと、奴のただでさえ覇気の無い顔から、生気まで消え失せていた。
ワシはそれを見て途端にヤル気が失せ、リーブに活を入れようと、挨拶がてらに背中をドンと叩く。
すると、そのまま勢いよくダストシュートの中に飛び込んでいってしまったので、大声で笑い飛ばし見送ってやった。

モニター室の前に行くと、中からスカーレットの笑い声が聴こえてきた。
ワシはこいつもべらべら喋りそうだと思い、中に入った。中に入っても奴が笑ったままなので、ワシもとりあえず笑う事にした。
「ガハハ! ガハハハハ!」
「キャハ! キャハハ! キャハハハハ!! …びくっ _, ._ ( ゚ ω゚)な、何よハイデッカー。いつからそこに居たのよ。」
「ガハハ! ドアの音にも気づかなかったか愚か者め。最近の若者は目先の流行にばかり囚われていて、自分の周りが見えなくなってると見える。ガハハ!」
「…えぇ、そうね。私の視界はムサ苦しいものは掻き消される様に出来ているもの。キャハハ!」
ぬぅぅ…
胸ばかりでかくなりおって、肝心の頭の中身がからっぽの様だ!

いつもならそこで奴の嫌味を大声で笑い飛ばしてやる所だが、今日は違う。今こいつに教わらねば、他に聞けそうな人間は社内に見当たらない。
「おい、貴様に聞きたい事があるのだが…」
「――――フン。『おい、貴様』ですって? 本当に野蛮な男ね。名前位ちゃんと呼べないのかしら? キャハハ」
「ぬぅ……スカーレット。貴様、今流行りの『アンゲロゲローナ』とは何か、知っているか?」
その名前を出した途端、奴の体がビクッと反応し、固まってしまった。

その反応にピンと来て、ワシは更に食い下がった。
「まぁ…その何だ。社長から直々の命令でな。お前に聞いて来いと言われたのだ。ガハハハハ!」
ワシは嘘をつき、今すぐ知りたいという興奮を抑え答えを待ったが、スカーレットは一向に口を開こうとしなかった。
そして、しばらく経ってからいつもと全然違う顔で微笑み、こう答えた。
「な、なんの事かしら?(にっこり)」
ウソだ。
「貴様、隠そうとしても無駄だ。今すぐに教えろ『アンゲロゲロリーナ』とは一体何なのか…」
「知らない! 何の事だかさっぱりわからない!」
「嘘を言うな、貴様知っているだろう『アンゲロゲロゲロリーナ』の正体を」
「………」
「今すぐに答えるがいい、『アンゲロゲロゲロゲロリー…」
その途端。
バチーーーーーンとワシの横っ面に奴のビンタが炸裂した。
女の力とは思えないその威力にワシは目は点になった。
「ほんっと失礼極まりない男!!! ゲロゲロ何度も言ってんじゃないわよ! 名前位ちゃんと呼べっての!! キャハハハッ!!
 正式名称は『アンゲロリーナ』様!! 今すぐ復唱して覚えなさい!! キャハハハ!!!」
「祈る時はねぇ、こうして両方の鼻に小指を突っ込んで、アンゲロ!アンゲロ!って叫ぶのよ!! わかった!? わかったらとっとと同じ様にッ…――、」
そこまで叫ぶと、黙ったままのワシの顔を見て、ハッとした顔で指を鼻から抜いて、いつもの調子に戻ってこう言った。

「―――っていう挨拶が社内で流行っているらしいじゃない?」

ワシはあんぐりと口を開いたまま、納得した。
そうか。
アンゲロリーナとは―――――――流行りの挨拶の事だったのだ。

しかしスカーレットの奴、何故そんな事を勿体ぶっていたのだろう。
…いやきっと、『アンゲロリーナ』の格好をするのが恥ずかしかったのだろうか?
「フッ―――貴様にもウブな心がまだ残っていたとはな。意外だ。ガハハ!!!」
その言葉を聴いて、奴は口元をヒクヒクさせて笑っていた。
「え、えぇそうね、とっても恥ずかしかったわ。キャハハ…そうよ、だからね…ハイデッカー。私がこの挨拶をしてた事は誰にも言っちゃダメよ。キャハハッ!」
「あぁ、わかっている。ワシと貴様だけの秘密だ! ガハハハ!!」
わしがそう言って爽やかにウインクをすると、奴は真っ青になってクマの人形がちぎれる位強く握り締めていた。
フッ…クマの人形まで持ち歩いているとは。……所詮、奴もただの女子供だったわけだ。

部屋を出た後に廊下で社長に出会った。
スカーレットの意外な一面を見る事が出来て上機嫌になったワシは、早速奴に教わったポーズを社長に向かって取り、大声で挨拶をした。
「若き神羅社長に敬礼ッ! 神羅万歳アンゲロォォーーーーッッ!!!!!!」
社長は持っていた書類をバサッと落とし、そのまま足早に何処かへ消えてしまった。
きっとワシがナウでヤングな挨拶をした事に驚き戸惑い、昇格の計画を練り始めたに違いない! ガハハ! これから毎日あの挨拶をしてやろう。
今日は良い事だらけで、愉快でしょうがない! ガハ! ガハハッ!! ガハハハハッッ!!!!!!

Ж月!日 刀(♂)

今日はいいニュースがある。
しばらく長期出張でミッドガルを離れていた手裏剣(♀)が本部に戻ってきたんだ。
知っての通り、Angello Crisisは最早にっちもさっちもいかない状態。
短銃(♀)も頑張ってくれているけど、妹の事となると冷静になりきれないようだし…。
やっぱりずっと僕の同期としてやってきてくれた手裏剣(♀)がいてくれると助かるよ。
こんな意味不明な任務に彼女を巻き込むのは気が引けるような気もするけど、
彼女だってあの若さで、この厳しいタークスをずっとやってきた子だ。
キャリアの長さじゃ短銃(♀)より数段上。きっと力になってくれるだろう。
信頼してるよ、手裏剣(♀)。明日からもAngello Crisis頑張れそうだ。

Ж月!日 手裏剣(♀)

長期出張で離れていたミッドガルに、ひさしぶりに帰ってきた。
疲れた様子の刀(♂)が出迎えてくれて、Angello Crisisに関しての資料を貰った。
出張先でAngello Crisisの事は聞いていたけど、あまり進んでないみたいね。
安心して、刀(♂)。今から私もAngello Crisisメンバーとして力になるわ。
そう言うと刀(♂)は笑った。ずいぶん苦労していたみたい…。
……。
刀(♂)、あなたがこんなにすっかり騙されるなんて珍しい事もあるものね。
長い付き合いが、あなたの眼鏡を文字通り曇らせちゃったのかな。
…大切な仲間であるあなたをたばかるのは心苦しいけれど。

私は幼い頃にその才能を見出され、タークスになるべくして育てられた孤児。
つまり………私は、ツォンに育てられたようなもの。
その私が──フフ、いえ、これ以上書く必要はないわね。
アンゲロリーナ様のために、私はあえてスパイとなる。
アンゲロ教に対抗しているフリをして、うまく内部を操り、まずはツォンを助けなくちゃ。
…ごめん、刀(♂)。信じてくれてありがと。でも私は、アンゲロリーナ様を…。

Ж月!日 散弾銃(♀)

今日は、ルーファウス社長直々に命令されて、
コレルプリズン送りになっている短銃(♂)の様子を見に行く事になった。
監獄暮らしで彼がどこまで改心したかどうか見極めるのが、私の任務。
元に戻っていたら、Angello Crisis部隊に入れるつもりなんでしょうけど──
この私に言わせれば、危険な賭けね。人手不足なのがありありと窺えるわ。
とにかく、私はコレルプリズンに向かったわけ。

──天然の監獄、コレルプリズン。

……………驚愕。
短銃(♂)はその中の、マンホールのような地下室にうずくまっていた。
それだけじゃない。奪われたクマの人形が恋しいのか、そこに出るレアモンスター、
“テスト0(ガードハウンド)”とかいう動物を抱き締めてハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァしていたわ。
モンスターは「もうやめてぇ」とか何とか泣き叫んでいたけど、全く気にしていないみたい。
砂がこびりついて剥がれかけたセロテープに貼り付いている、ちぢれた前髪がひどく悲しかったわ。

短銃(♂)は私の姿に気付くと、その行動に似合わぬクールな笑みを浮かべたの。
彼の瞳が怪しい光を帯びる。……まさか、私をアンゲロの世界に誘惑しようというの?

「フッ。よく来たな。ここに来たという事は、あんたもアンゲロ教に入るという事か」
まずいわ。本能が危機を知らせるが、短銃(♂)の言葉はなぜか、甘美な響きを持って届いてしまう。
「アンゲロリーナ様の魅力に気付いた事は正しい。アンゲロリーナ様より魅力的な者はいない」
………………………。
「アンゲロリーナ様はこの星の唯一無二なる存在。誰よりも最高、何よりも完璧───」
………………………………………!!

「アンゲロリーナ様は………」
「ふざけないでちょうだい!!!」
次の瞬間、私の平手打ちが短銃(♂)の頬に炸裂していた。
パァンという音がして、続いて吹っ飛ばされた短銃(♂)が壁にぶち当たるゴキャッという音がとどろく。
「唯一無二なのは、この私よ!私が、この星のルールなんですから!!」
短銃(♂)は一瞬、殴られた頬に手を当てて呆然としていたが、やがて、今の衝撃で
ご自慢の前髪が剥がれ飛んでいった事に気付くと、オロオロと床をはいずり出したわ。
「余所見しないでちょうだい!今言った事、おわかりかしら?」
無理やり顔をつかんでこちらに向けてやる。ゴキリと鈍い音がしたが気にしない。

「………す、すいませんでした。アンゲ………散弾銃(♀)様」
「それでいいわ」
短銃(♂)はガクガクとひどく怯えながら、震えた手でワカメのような前髪をギュッと握っていた。
涙ぐんで揺れる瞳には──その一瞬だけは確かに──アンゲロリーナは、映っていなかった。
満足した私は、任務終了とばかりに完璧な微笑みを浮かべ、意気揚々と帰路についたの。


───あら?任務の内容ってなんだったかしら?
まあ、アンゲロとかいうくだらない物から改心させる手助けにはなったでしょうから、何も問題はないわね。
連れ戻すのも忘れて放置してきちゃったけれど、ま、彼ならその気になれば自分で出てこられるでしょ。
地味な仕事だったけれど、まあいいわ。エクセレント!本日の任務も完璧よ!

Ж月┰日 短銃♀

XXXXという人物が未だに見つからない。
どこかで見た記憶があるはずだけど思い出せない。
入社試験の時どこかに書いてあった気がするんだけど・・・。

気晴らしにハイウインドを見に行ったら、ハイウインドの ビキニの 姉ちゃんが
真っ白な翼が生えて 白目をむきながら絶叫し 右の小指を左の鼻の穴に 左の小指を右の鼻の穴に 入れた 神々しいとは言い難い 女神・・・
つまりは アンゲロリーナ になっていた。

本気でリボルバー落としそうになった。

慌てて艦内に入ると、ブリッジには 
あの ツォンさんが 本部に置いたのと 同じ 仏壇が


もう有無を言わず責任者をとっ捕まえました。

@月$日 手裏剣(♀)

刀(♂)と会ってから、ふとニブルヘイムの任務で出会った、赤いマント姿の元タークスの人のことを思い出した。
この間行ったときに棺桶の中へそっとクマエルとお祈りの仕方を書いた紙を忍ばせてみたけど、
あの人は今頃どうなっているのだろうか…

@月 Й日 ルーファウス

今日はとても奇妙な夢を見た。
どうもAngello Crisisの件で予想以上に疲れが溜まっていたらしい。
レノに事情聴取しなければならないというのに、この夢のせいで既に頭が痛い。
それに普段は日記に夢の内容を書くことなどないのだが、どうも胸騒ぎがする。
まあ気にし過ぎだとは思うが、一応書き記しておくことにした。
その夢はかなり壮大な内容だった気がするが、覚えているのは荒れ果てた建物の中で
何故か車椅子に乗っている私がXXXXと話をしているところからだ。

ルーファウス「なあXXXX、一つ教えてくれ。」
XXXX「一つだけだよ。」
ルーファウス「ツォンはクマエルを使って元通りになると言っていたが、あれはどういう意味だ?」
XXXX「彼が・・・帰ってくる・・・」
ルーファウス「アンゲロリーナ・・・悪夢だな・・・」
XXXX「らしいね・・・」
ルーファウス「らしい?」
XXXX「僕はアンゲロリーナ様を知らない・・・感じているだけだ。・・・イライラするよ。アンゲロリーナ様は僕とツォン、どっちを・・・」
ルーファウス「哀れアンゲロリーナの使者。」
XXXX「どっちだろうとあんた達の結末は同じだ!!アンゲロリーナ様は長い旅をしてこの世界にやってきた。
    愚かな連中にアンゲロの素晴らしさを教える為にね。でも、分かるよねぇ?
    ここはアンゲロリーナ様が来た頃と何も変わっちゃいない。だから僕がアンゲロリーナ様を喜ばせてアンゲロるんだ。
    アンゲロリーナ様が命じるなら、どんなアンゲロな事だってやるよ。」
ルーファウス「ふ、悪夢再びか・・・」
XXXX「あんた達がいる限り、何度でも同じアンゲロな事が起こるのさ。」

ルーファウス「星を巡るライフストリーム・・・。生と死の狭間を行きつ戻りつ・・・
        その繰り返しこそが命の正体ならば、アンゲロが繰り返されるのも必然。
        アンゲロリーナだかクマエルだか知らないが、何度でもことを起こすがいい。
        我々は命の定めに従い、その度にお前達を阻止して見せる。」
XXXX「社長、それはAngello Crisisなんて無謀な任務を指示した言い訳?本当は後悔してるんじゃないンゲロ?」
ルーファウス「後悔?私は楽しくて仕方がない。」
XXXX「・・・よかった。じゃあ、そろそろ終わりにしようか。」

ここでXXXXが巨大な羽の生えた熊の人形みたいな物を召喚して大騒ぎになる。
ソルジャー1stとタークスがその熊の人形みたいな物と戦っているとまたXXXXが喋りだした。

XXXX「楽しいねぇ!社長!次は何を呼ぶ・・・!」

ここで私は何故だか分からないが持っていた熊の人形を取り出し
XXXXに見せ付けた後、建物の外に投げ捨てた。

XXXX「クマエルッ!?」
ルーファウス「気付けよ、熊不孝者。」
XXXX「アンゲロオォォォォォォォオオォォォォォォオッ!!!!!」

XXXXは叫ぶのとほぼ同時に手を私に向けてエネルギー弾のようなものを放ち
熊の人形を追って建物から飛び降りた。おそらく私はこれを避けたと思うが、ここから先はよく覚えていない。
この夢で一つ気になったのは、XXXXという人物についてだ。夢の中で私は確かにXXXXという人物を知っていた。
だが、起きるとXXXXの顔も服装すら思い出せない。夢なんて曖昧なものだ、気にする必要など何もないはずだ。
しかし、XXXXはツォンにアンゲロを説いた人物だと報告をうけている。XXXXがタークスだったという話もあるが
そんな記録は残っていない。なのに私はこのXXXXという人物に会ったことがある気がしてならない。
もしXXXXがタークスだったのなら私も会っているはずだが、そんなタークスがいた記憶もない。
このことは考えても答えは出そうにない。Angello Crisisの成果に期待するしかないだろう。

@月 ■日 宝条

明日、北の大空洞へと向かう事になった。
社長達はアンゲロどうたらとかいうモノに固執しているようだが、私にはどうでもいいことだ。

私の予想する明日は、まずセフィロスに擬態化したジェノバが大空洞へ来ているはずだ。
そしてそのジェノバはそこにいるセフィロスと…我が息子とリユニオンをする。
クッ…クックックァックァックァックァッ!!!
明日こそ、私のジェノバリユニオン仮説が証明される楽しみでならない。今日は早く寝よう。

今日、凄まじい出来事が起こった。
私はその場の光景を信じることが出来なかったが、とにかく順を追って書いていく。

私達は大空洞へついた。
そして…そうだたしかクラウド一行と出会った。
クラウド……私が失敗作と判断したもの。
その時、私は自分の科学的センスのなさを思い知らされた。
しかしながら、これでリユニオン仮説は証明されたはずなので、私は落胆の中にも少々嬉しさがあった。

ところが、セフィロスに擬態していたはずのジェノバはいつの間にやら、
「真っ白な翼が生えて 白目をむきながら絶叫し 右の小指を左の鼻の穴に 左の小指を右の鼻の穴に 
入れた 神々しいとは言い難い 女神」に擬態しているではないか。
そしてそのジェノバは大空洞の巨大マテリアの中にいた熊のぬいぐるみとリユニオンを始めて……

私は本当に科学的センスが無……いや、こんな事あの天才ガストですら予測不可能だっただろう。
このように散々な一日だったが、ひとつだけ良い事があった。

大きく予想を外し、落胆する私に社長が近づいてきた。
どうせまた、二流だの何だの嫌味を言いにきたのだろう、
しかし社長は
「今日は素晴らしい物を見せてもらった!これで我々の作戦も大きく進行するだろう。」
と私を褒め称え、更に限界ギリギリまで神羅の利益を研究資金にあててくれる事を約束してくれた。

しかし、もはや私には研究する対象が…いや、あった。
アンゲロリーナ(今日名前覚えた)。現在凄まじい勢いで神羅を侵食している謎多き者。
そう、今日から私はアンゲロリーナについて徹底的に調べるのだ!
クァックァックァックァックァックァックァックァックァックァックァックァッ!!

Ж月ф日 スカーレット

いつものようにハンドバッグにクマエルちゃんを忍ばせて、社内を歩いている時だったわ。
廊下の隅で、何だか黒っぽくて小さなものがウロウロしているのよ。
何かしら?と思って近づいてみると───あら。リーブの猫じゃないの。
ダストシュートの入り口をカリカリと爪で引っかきながら、ニャアニャア必死に泣いてるの。

「ちょっと。こんな所で何やってんのよ、アンタ。リーブはどうしたのよ」
ひょいと後ろから首元をつまんでやると、リーブの猫……ケット・シーは私にしがみついてきた。
ボロボロと涙を零しながら私に抱き付いて、フニャフニャ事の次第を話し始めたわ。
ずいぶん混乱しているようで、正直何を言ってるのかいまいち理解し難かったけれど───

「…………ハァ?マジで?キャハハハッ!!嘘おっしゃい!!」
全てを聞き終わった後、私は思わずこう言ってしまったわ。
だって、信じられる?いくら疲れていたからって、ハイデッガーの馬鹿に背中を叩かれた衝撃で、
あのリーブがダストシュートの中に落っこちていっただなんて(>>これ)。三流のコメディじゃないの。
………でも、このケット・シーの必死な様子を見ていると………。
それに、リーブの姿を見ていないのも事実。──私は黙ってしまったわ。

『もし私に何かがあったら───スカーレット。………ケット・シーを、頼む』
いつかのリーブの言葉が頭の中でリフレインする。
泣きながら私にしがみついて、リーブを助けてと懇願する、この猫。
キャハハハ!こんな馬鹿らしい話、誰が信じるというの?
………───私以外に。

「仕方ないわね!見に行ってあげるわよ。でも、何も無かったらアンタを丸焼きにしちゃうからね、キャハハ!」
ケット・シーを床に降ろすと、私はびしっと指を指して言った。
ケット・シーはまだ泣きながら、何度も何度もお礼を言っている。
私は溜息をついた。アンゲロリーナ様に対抗するリーブを助けてどうするつもりなの?
………信じられないほどの、自分のお人よしさ加減に呆れつつ、私はダストシュートに足を踏み入れた。

「クサッ!!それに汚いわね……私にこういう所は似合わないのよ!!」
ぶつくさと文句を言いながら、ゴミ溜めの中を進んでいく。
本当にありえないわ。この私が、こんなに不潔な場所に………っ!!
美しい化粧ははがれ落ち、綺麗にまとめた髪もグシャグシャだ。
「リーブー!!どこにいるのよ!!返事しなさいよっ!!」
もう、こうなったら意地よ。私は大声を張り上げた。

「スカー……レット……?」
かすれた弱々しい声が、私の耳に届いた。
はっとして、その声の聞こえた場所に走る。ゴミをかき分けて。
自慢の真っ赤なドレスは汚れ、ストッキングも伝線してしまった。
でも今は、そんな事を気にしている場合じゃないわ。
「リーブ!!しっかりしなさい!!」

ゴミの中に埋もれた彼を抱き起こし、数度往復ビンタをぶちかます。
「へぶっ!!(,,)゚3)・∴'. ス、スカーレット、なぜ、ここに………?」
「アンタの猫に頼まれたのよ。さあ、ここに長居する必要はないわ。さっさと行くわよ!!」
リーブは笑った。ふん、どうせ化粧は落ちちゃってるわよ。悪かったわね。
「ありがとう………スカーレット」
………まあ、お礼を言われるのは、やぶさかではないわ。

ダストシュートから抜け出す時、ハンドバッグが引っかかり、クマエルがゴミの中に落ちてしまった。
私はそれに気付いていたけれど───取りに帰るつもりはなかった。
クマエルよりも大切なもの。それは、今、こうして生きているという事よ!!

クマエルに小さく手を振って、あとは振り返らずに光を目指す。
ダストシュートを抜けて、抱き合って喜ぶリーブとケット・シーを眺める私は、もう、アンゲロリーナ様のものじゃない。
「いいこと?シャワー浴びてきますから、私へのお礼を考えておくことね!キャハハ!!」
背中で、リーブとケット・シーの声を聞きながら歩いていく私。………ふん。それほど、悪い気分じゃないわね。

────さよなら、私の愛するクマエルちゃん。
私、あなたがいなくても強く生きていくわ。

東紫箔 ツォン

困ったものだ。最近は四六時中監視されているせいで、こうして日記を綴るのも一苦労。
全国一億人の読者が『ツォンのおへや』の更新を楽しみにしているというのに……。
……クッ、タークス主任としてこれ以上腑甲斐ない事はない。

皆、心配しているだろうな……私無しでどうしているのだろう?
クマエルちゃんは大丈夫だろうか。
レノはちゃんと『クマエル観察日記』を引き継いでくれただろうか。
意外とうっかり者の奴の事だから、最後の印鑑を忘れていないか心配だ。
『コメントコーナー』は誰か書いてやってくれているのだろうか。
……心配はつきない。

そういえばホクロアンテナで、手裏剣♀が出張から帰還したという情報をゲットした。
彼女は私が手塩にかけてアンゲロ色に染めた、筋金入りのアンゲラー。
きっと私のピンチを聞いて、今頃救出作戦を練っている事だろう。
部下に頼るのは心苦しいが、今の私にはそうするしかないのだ。

彼女は最年少ながら長いキャリアを持つ手練だ。私は彼女を信頼している。
つまり、何が言いたいかというとだな。

ボ ス ケ テ 手 裏 剣

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