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 □月$日 ツォン

喜ばしい報告がある。やっと、レノとイリーナが解放された。
彼らはもちろん、ルードや社長までも参加した喜びのアンゲロ祭りは
一晩中続き、さすがのタークス主任である私もヘトヘトだ。
具体的には、まず左右の陣営に別れ、アンゲロアンゲロと
アンゲロリーナ様に祈りを捧げながら………まあ、この話はまたいつか。

主役のレノとイリーナも、始めて参加するアンゲロ祭りに大喜び。
感極まって大泣きしたり、興奮しすぎて気絶したり、全く、2人とも子供のようだ。
共に閉じ込められた事で、先輩後輩としての絆が深まったのだろうか。
それならばいい。閉じ込めた甲斐もあったというものだ。

ああ、この疲れすら心地良い。大切な部下と再び会えた喜びは、
私の血潮となり体中を流れ、私のホクロを更に活性化させる。
この調子ならすぐに70万Hitなど迎えられそうだ。
今から楽しみでならない。

 □月$日 レノ

ヤバイ。ツォンさんヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
ツォンさんヤバイ。
まずキモイ。もうキモイなんてもんじゃない。超キモイ。
キモイとかっても
「モルボルの口臭嗅いだ時くらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ宗教。スゲェ!なんか教典とか無いの。呪文とか儀式とかを超越してる。終わらないし超キモイ。
しかもアンゲロしてるらしい。ヤバイよ、アンゲロだよ。
だって普通はタークスとかアンゲロしないじゃん。だって自分の同僚がだんだん染まっていったら困るじゃん。任務中にアンゲロとか困るっしょ。
ターゲット追い詰めて、あとは後ろからこの引き金引くだけ、ってときに「お祈り二時間だから」とか泣くっしょ。
だからリーブさんとかは多分アンゲロしない。話のわかるヤツだ。
けどツォンさんはヤバイ。そんなの気にしない。アンゲロしまくり。最も遠くから到達するホクロビームとか観測してもよくわかんないくらいキモイ。ヤバすぎ。
宗教っていたけど、もしかしたら洗脳かもしんない。でも洗脳って事にすると
「じゃあ、アンゲロリーナ様ってどこから出てきたのよ?」
って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にも分からないなんて凄すぎる。
あと超長い。約1ムッシュ。年齢で言うと95歳。ヤバイ。長すぎ。「メシはまだかいのぅ……」とか言ってる間に死ぬ。怖い。
それに超疲れる。超ずっとやってる。それに超のんびり。億年とか平気で出てくる。億年て。小学生でも言わねぇよ、最近。
なんつってもツォンさんはホクロが凄い。中央から毛が生えてても平気だし。
俺らなんてムダ毛とかたかだか眉毛が伸びてきただけでカッコ悪いから抜いたり、整えたり、女なら書いたりするのに、
ツォンさんは全然平気。ホクロ毛をホクロ毛のまま扱ってる。凄い。ヤバイ。
とにかく貴様ら、ツォンさんのヤバさをもっと知るべきだと思います。
そんなヤバイオフィスにちゃんと出て行った俺とイリーナとか超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。


………とか書いてたら背後に殺気を感じる。
心なしかアンゲロアンゲロとか呟く声もうわなにをするやめ

 □月 歹日 イリーナ

先日のアンゲロ祭りで体中が痛い。
会場となった神羅本社前は、アンゲロ祭りに参加したみんなが
食い散らかしたり、脱ぎ散らかしたりしたゴミでごったがえしている。
特にツォンさんが脱いだのはひどかった。
ツォンさんが脱いだ瞬間、『キャー!』と言って目を両手で覆いつつも、
指の間から見た。

まるで産業廃棄物の不法投棄状態となった本社前。
だから、今日はタークスの仕事をそっちのけで自主的に掃除をしている。

とりあえず華麗なステップを踏みながら掃除機をかけているツォンさんに聞いてみた。

「あの…アンゲロリーナ様ってどこにいるんですか?」

ツォンさんは、ひらりと私の目の前に着地すると言った。

「みんなの心の中さ」

涙が止まらなかった。



そういえば、きのうからレノ先輩の姿が見えない。先輩、すぐサボるんだから。

 □月 歹日 ツォン

アンゲロ祭りも無事終了を迎え、私の心は満足感でいっぱいだ。
ルードはもとより、少しだけ疑っている様子の見えたイリーナも
すっかりアンゲロリーナ様の虜になってくれたようで、何より。
………だが問題は、レノだ。
レノの意思の強さはタークスとして賞賛すべきものであるが、
それはまた別問題。
いつまで経っても分かろうとしない彼を、私の力で更正せねばなるまい。
それがタークス主任としての、レノの上司としての、愛だ。

隙を見て逃げ出そうとするレノをドリームパウダーで眠らせ、
私の自宅(布を被っている)へ連れて帰った。
目を覚まして暴れ出すレノを診察台に拘束し、耳元でひたすら………
これ以上はアンゲロリーナ様の怒りに触れるので、文章化は不可能だが
レノはひとしきり抵抗した挙句、びくんと痙攣して動かなくなった。

今は部屋の隅で、クマエルちゃんのぬいぐるみを抱いてブツブツ言ってる。
よい傾向だ。明日からの任務が楽しみでならない。

 □月 歹日 レノ


(奇妙な絵の合間に、涙のあとが滲んでいる………)


□月 歹日 レノ

昨日はアンゲロ祭りだった。
会場の本社ビル前は何処から集まってきたのか、大勢の人でごった返していた。
俺は少し離れた場所から、踊り狂う奴らを冷やかな目で眺めていた。
お前ら、なんでそんなにアンゲロアンゲロ出来るんだ、と。アンゲロの意味全然理解ってねェだろ、と。
小一時間問い詰めたかった。しかし、その質問自体愚問なので、あえて尋ねはしなかった。
屋台の前では、ツォンさんが
「バナナちょーだい!バナナちょーだい!」
とチョコバナナ屋にしきりに叫んでいた。俺がその横を通り過ぎようとすると、
「レノも、お食べよ。」
と言われ、チョコバナナを100本も渡された。
祭りから離れて、非常階段を登る。階段に腰掛けてバナナを食っていたら、いつの間にかルードの奴が背後から現れ、隣に座っていた。
しばらくの間、無言が続く。
遠くから喧騒が聴こえた。
「相棒!お前も食えよ、と!」
そう言ってバナナを奴の口に突っ込んだら、
「あぅっ…――ふッ んくぅっ…――!!」
と、女みたいに喘ぎ声を出されたので、キモくなってその場を立ち去った。

今日は祭りの後片付けだ。イリーナは腰を押さえながら掃除をしている。ケケケ、真面目に祭になんか参加するからそうなるんだよ、と。
ご機嫌で掃除機をかけるツォンさんを見て、言ってみた。
「これで、祭りとも当分お別れッスね」
すると、ツォンさんは、こう答えた。
「馬鹿者ッ! 私の心の中は一年中アンゲロ祭りだ!!」
涙で前が見えなかった。

冷凍したバナナで当分オヤツには困りそうにない。
そういえば、祭りの後からルードの様子がおかしい。目が合うと、赤くなって顔を逸らしちまう。一体どうしちまったんだアイツは、と。

□月 歹日 ルード

……と、上記の様なメモの切れ端を見つけたのだが、多分レノの持ち物なのでこっそりポッケにしまっておいた。
しかし、レノは一体何処に行ってしまったのだ? 掃除に行ったきり、全然見かけない。
主任に聞いてみようと思う。
レノときたら、全然私の気持ちに気付いてくれないびで、祭りのテンションのまま告ろーって思ってたのに。
早く帰ってきてよ、レノ。 私の相棒、レノォッ!!

 □月 ξ日 レノ

やっべ。マジやっべ。昨日の記憶がまるでねぇ。
気付いたら自分ちのベッドに寝てた。
ツォンさんとどっか行った気がするけど、気のせいだったのか?
祭りで飲んだ酒に酔ってたのかもしれない。
多分そうだ。きっとそうだ。

それより、枕元にあったぬいぐるみが気になる。
なんか、羽はえたクマで、ラッパ吹いてるぬいぐるみ。
こんなんいつ買ったっけ?つーか俺、ぬいぐるみなんか買うキャラだっけ。
良く見ると、どこかで見た事があるような気もする……。
……思い出せねぇ。ヤバイな。

ま、過去は気にしないのがレノ様流、と。
明日会社行ったら、イリーナたちとかくれんぼでもするかな。
あいつ、絶対ノリノリで隠れるに決まってるぞ、と。
今から楽しみでならない。


ちなみに、ぬいぐるみの名前はクマエルにしてみたぞ、と。
パッと無意識に思いついた名前だけど、悪くないと思ってる。

  □月 ξ日 イリーナ

 出社してきたレノ先輩に、きのうの掃除をサボった事を小一時間問い詰めてみた。
アンゲロしすぎて痛くなった腰で、どうして掃除を半日もしなければいけないのか、
とても理不尽だったので、サボったレノ先輩への態度はどうしてもやさぐれてしまった。
 レノ先輩はしばらく目を泳がせたあと、「そんな野暮な事聞くなよ、と。」
と、どうとでも解釈できるような発言をしてうまく逃げた。
まったく…。それにしても、先輩の背中のクマのぬいぐるみが気になる。
お母さんが赤ちゃんをおんぶする要領で、ヒモでうまく括り付けられていた。
 「先輩、そのクマなんですか?」
 と聞いてみたら、
 「クマエルちゃんだぞ、っと。」
 と少し照れくさそうな顔をした。
ドン退きしたが、先輩のあまりに嬉しそうな顔を見ていたら、
自分が逆に大人気無いような気がして、反省した。
そして、思い直せば、先輩もかわいいところがあるんだなぁ、とちょっと感心できるようになった。
クマエルがあんまりかわいかったので、先輩の隙を見て奪ってみたら、
「かえせよ!俺のクマエルちゃんかえせよ!!うわーん!!!」
と、泣きそうな顔で怒られたので、思わず即座に先輩に返してしまった。
すごい罪悪感を感じた。

昼休み、タークス全員でかくれんぼをする事になった。
閉じ込められていた時、レノ先輩が私の思い出話を聞いてくれた事があって、
そのとき無事に出る事ができたらかくれんぼをしようと約束してくれたのだ。
覚えていてくれて、嬉しい反面ちょっと恥ずかしかった。
 オニはレノ先輩に決まり、残りのタークス達は全員逃げた。
諜報活動、要人の警護、暗殺など隠密の真髄を極めるタークスたるもの、
並大抵の隠れ場所に満足してはならないような気がして、徹底的に逃げた。
 そしてやってきたのが66階の宝条総括の研究室。
もう時間もないし、この人ひとりはゆうにに入れるような金属の球体の中に隠れるしかないわね。
なんだか『JENOVA』って書いてあるけど、気にしない事にする。
はやくしないと先輩がきちゃう。急いでかくれる事にした。

  □月 ξ日 レノ

イリーナ見つかんねぇ。さすがかくれんぼマスター。
とか暢気に言ってる場合じゃなかったんだよ。あいつは本当、ドジ後輩だ。それを再認識した。
「イリーナの奴。どこまで行ったんだ?昼休み終わっちまうじゃねーか、と」
俺は仕方なく、敬遠してた宝条の研究室がある階まで行った。あー、空気わりぃ。
その時だった。
「おっ、イリーナ見ーつけ………──」
「……えっ!!?あっ、先輩!もー、早すぎ!」
そんな会話してる場合じゃねぇ。イリーナが今まさに足を踏み入れようとしている金属のカタマリ。
そこから、金属コードのような、グロテスクな触手がイリーナを絡めとろうとしてるのが見えた。
イリーナは気付いていないのか、そこから動かない。ヤバい。ヤバすぎる。俺の勘はあたるんだぞ、と。
「イリーナっ!!!」
「え?………きゃああああっ!!!」
俺が走り出すと同時に、その触手がイリーナの腕を絡め取った。凄い力だ。引き剥がせない。
電磁ロッドでその触手を切断するが、後から後から触手は出てくる。キリがねぇ。
誰かを中に引きずり込むまで、止まらないんだ。俺はやっと理解した。
「くそっ!!」
再び触手が、突然の出来事に立ち上がれないイリーナを捉えようと伸びる。
俺はほとんど無意識に、背負っていたクマエルを、触手に向かって────投げた。
触手はクマエルを絡め取ると、満足したのかゆっくりと金属シェルターに戻っていった。
ゴボゴボという音とともに、クマエルが溶けてゆく。おぞましい光景だ。あと一歩遅れていたら……。
「せ、先輩……ありがとうございました。でも………良かったんですか?(クマエル)」
「………いいんだぞ、と」
その瞬間、俺の中の何かが落ちたような気がした。憑き物のような何かが。
ここ数日、アンゲロじみた何かに囚われていたような気がする。
そこから抜け出せたんだから、イリーナに感謝しないといけないかもしれないな、と。

ちなみに、ツォンさんは64階のトイレに隠れようとしたらしいが、間違えて女子トイレ入ったらしくて
「いや、違うんだ。私はけして痴漢ではない。すいませんお願い社長には言わなry」
って半泣きで懇願してた所を保護した。
ルードは最初から隠れる気が無かったらしく、いつもみたいにトレーニングしてた。全裸で。

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